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福岡高等裁判所 昭和63年(ネ)873号 判決

《目次》

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主文

事実

第一 当事者の求めた裁判

一 控訴の趣旨

二 控訴の趣旨に対する答弁

三 附帯控訴の趣旨

四 附帯控訴の趣旨に対する答弁

第二 当事者の主張

第三 証拠関係

理由

第一 本件空港の現況沿革と被控訴人(附帯控訴人)らの居住関係等

第二 本件訴えの適法性及び請求の正当性の有無

第三 侵害行為、被害及び騒音対策

第四 違法性(受忍限度)、地域性及び危険への接近、将来の損害賠償の請求に係る訴えの適法性の有無並びに消滅時効完成の有無

第五 損害賠償額の算定

第六 結論

別紙

一 当事者目録

二 附帯控訴人目録

三 右同

四 右同

五 右同

六 控訴人(附帯被控訴人)最終準備書面

七 被控訴人(附帯控訴人)最終準備書面

八 死亡被控訴人相続人一覧表

九 周辺対策実施状況一覧表

一〇 本判決引用図表(別表(一)乃至(一八)の六)

一一 別表第一損害賠償額等一覧表

一二 別表第二損害賠償額算定計算式一覧表

一三  期間損害賠償額算定計算式一覧表

一四 控訴棄却の被控訴人ら一覧表

一五 請求棄却の被控訴人ら一覧表

一六 請求棄却の附帯控訴人ら一覧表

当事者 別紙一 当事者目録記載のとおり

主文

一  控訴に基づき、

1  別紙一四控訴棄却の被控訴人ら一覧表記載の被控訴人らの関係において、控訴人の本件控訴をいずれも棄却する。

2  別紙一五請求棄却の被控訴人ら一覧表記載の被控訴人らの関係において、原判決主文第二項(控訴人敗訴部分)を取り消し、同被控訴人らの請求をいずれも棄却する。

3  別紙一一別表第一損害賠償額等一覧表記載の被控訴人(但し、別紙一四控訴棄却の被控訴人ら一覧表記載の各被控訴人を除く。)らの関係において、原判決主文第二項、第三項を次のとおり変更する。

(一)  控訴人は、別紙一一別表第一損害賠償額等一覧表記載の各被控訴人(但し、別紙一四控訴棄却の被控訴人らの一覧表記載の各被控訴人を除く。)に対し、当該被控訴人の同表損害賠償額欄記載の各金員並びに同表内金欄記載の各金員に対する同表1記載の各被控訴人については昭和五一年六月二二日から、同表2記載の各被控訴人については昭和五六年一二月一五日から、各支払済み(但し、同表遅延損害金の終期欄に記載のあるものについては同記載日)まで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  同被控訴人らの昭和六二年一二月七日までに生じたとする損害賠償請求につき、その余の請求をいずれも棄却する。

二  附帯控訴に基づき、

1  原判決主文第一項(福岡空港供用差止請求に係る訴え)中別紙二附帯控訴人目録記載の各附帯控訴人関係部分に対する同附帯控訴人らの附帯控訴をいずれも棄却する。

2  原判決主文第四項中別紙三附帯控訴人目録記載の各附帯控訴人関係部分を次のとおり変更する。

(一)  控訴人は、別紙三附帯控訴人目録記載の各附帯控訴人(但し、別紙一六請求棄却の附帯控訴人ら一覧表記載の各附帯控訴人を除く。)に対し、右同別紙三の目録中当該附帯控訴人の期間損害賠償合計額欄記載の各金員を支払え。

(二)  同附帯控訴人らの平成三年八月三〇日までに生じたとする損害賠償請求につき、別紙附帯控訴人目録記載の各附帯控訴人(但し、別紙一六請求棄却の附帯控訴人ら一覧表記載の各附帯控訴人を除く。)のその余の請求及び右同別紙一六の一覧表記載の各附帯控訴人の請求をいずれも棄却する。

(三)  同附帯控訴人らの平成三年八月三一日以降に生ずるとする将来の損害賠償請求に係る訴えをいずれも却下する。

3  別紙四及び同五の各附帯控訴人目録記載の各附帯控訴人らが当審において拡張した請求につき、

(一)  控訴人は、別紙四附帯控訴人目録記載の各附帯控訴人(但し、同別紙目録附帯控訴人番号69、124、ないし128、130ないし138、224ないし230、232ないし236の各附帯控訴人を除く。)に対し、同別紙目録当該附帯控訴人の賠償慰謝料合計額欄記載の各金額に対する昭和六二年一二月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  同別紙目録記載の各附帯控訴人(右(一)括弧内の附帯控訴人を除く。)のその余の請求及び右(一)括弧内の各附帯控訴人の請求をいずれも棄却する。

(三)  控訴人は、別紙五附帯控訴人目録記載の各附帯控訴人に対し、同別紙目録当該附帯控訴人の相続分慰謝料額欄記載の各金額に対する同別紙目録遅延損害金の終期欄記載の日の翌日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(四)  同別紙目録記載の各附帯控訴人(但し、同別紙目録附帯控訴人番号99、100、102、103、109ないし112、166ないし169、242ないし245の各附帯控訴人を除く。)のその余の請求をいずれも棄却する。

三  附帯控訴費用を除く訴訟費用について、別紙一四控訴棄却の被控訴人ら一覧表記載の被控訴人らと控訴人の間に生じた控訴費用は控訴人の負担とし、別紙一五請求棄却の被控訴人ら一覧表記載の各被控訴人と控訴人の間に生じたものは原審及び当審を通じて全部同被控訴人らの負担とし、別紙一一別表第一損害賠償額等一覧表記載の各被控訴人(但し、別紙一四控訴棄却の被控訴人ら一覧表記載の被控訴人を除く。)と控訴人の間に生じたものは、原審及び当審を通じてこれを二分し、その一を右各被控訴人らの負担、その余を控訴人の負担とし、附帯控訴費用は、全部当該附帯控訴人の負担とする。

四  この判決は、第二項2の(一)、3の(一)、(三)につき、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決中、控訴人敗訴の部分を取り消す。

2  控訴人敗訴の部分について、被控訴人らの請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

三  附帯控訴の趣旨

1  原判決中、別紙二附帯控訴人目録記載の各附帯控訴人につき主文第一項を、別紙三附帯控訴人目録記載の各附帯控訴人につき主文第四項をいずれも取り消す。

2  附帯被控訴人は別紙二附帯控訴人目録記載の各附帯控訴人のために、福岡空港を、毎日午後九時から翌日午前七時までの間、一切の航空機の離着陸に使用させてはならない。

3  附帯被控訴人は別紙三附帯控訴人目録記載の各附帯控訴人に対し、昭和六二年一二月八日から、それぞれ前2項記載の夜間離着陸禁止が実現され、その余の時間帯において、騒音が右附帯控訴人らの居住地域で六五ホンを超える一切の航空機の離着陸を禁止するまで、毎月末日かぎり、各自一か月別紙三附帯控訴人目録の損害月額欄記載の割合による金員を支払え(請求の減縮)。

4  附帯被控訴人は別紙四附帯控訴人目録記載の各附帯控訴人に対し、各自、同別紙目録の提訴後の慰謝料欄記載の金員に対する昭和六二年一二月八日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え(請求の拡張)。

5  附帯被控訴人は別紙五附帯控訴人目録記載の各附帯控訴人に対し、同別紙目録の内金欄記載の金員に対する同別紙目録の遅延損害金の終期欄記載の日の翌日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え(請求の拡張)。

6  附帯控訴費用は附帯被控訴人の負担とする。

四  附帯控訴の趣旨に対する答弁

1  本件附帯控訴を棄却する。

2  附帯控訴費用は附帯控訴人らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  当事者双方の主張は、左に付加、訂正するほか、原判決事実摘示中被控訴人らないしその被承継人ら関係部分のとおりであるから、ここにこれを引用する。

二  控訴人(附帯被控訴人)の当審における主張は、別紙六控訴人(附帯被控訴人)最終準備書面記載のとおりである。

三  被控訴人(附帯控訴人)らの当審における主張は、別紙七被控訴人(附帯控訴人)最終準備書面記載のとおりである。

四  原判決事実摘示A18枚目表一二行目の「周辺対策実施状況一覧表」から同一三行目の「とおり」までを「別紙九周辺対策実施状況一覧表記載(同一項目の重複記載部分を除く。)のとおり(但し、同表に記載がない被控訴人とその原審被承継人関係部分については赤字記載部分を除き原判決別冊5周辺対策実施状況一覧表記載のとおり)」と、同A68枚目裏九行目の「黒色線」を「濃い紫色線」とそれぞれ改める。

五  被控訴人(附帯控訴人)ら代理人は、死亡した被控訴人(附帯控訴人)らの相続、承継関係につき、別紙八死亡被控訴人相続人一覧表記載のとおり陳述し、附帯控訴の趣旨3は原審口頭弁論終結の翌日である昭和六二年一二月八日以降の航空機騒音による被害につき原判決認容の損害額に請求を減縮して損害の賠償を、同4は原判決で認容された本件訴訟提起後原審口頭弁論終結時までの損害(原判決別表第二期間別慰謝料合計B欄の金員)について請求を拡張し、原審口頭弁論終結の日の翌日である昭和六二年一二月八日から支払済みまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払いを、同5は本訴提起後原審口頭弁論終結時までに死亡した原告の承継人である附帯控訴人らの相続にかかる慰謝料の遅延損害金について請求を拡張し、原審において終期が付してあったものをその終期を外し支払済みまでの遅延損害金の支払いを、それぞれ求めるものであると述べ、控訴人代理人は、同表死亡被控訴人欄及び相続人欄の各記載のうち相続割合欄記載の事実については知らないが、その余の事実は認めると述べた。

第三  証拠関係〈省略〉

理由

(書証の形式的証拠力について)

原審書証目録記載の書証については原判決理由B1枚目表三行目冒頭から同七行目末尾までと同一の理由により、当審書証目録記載の書証については甲第一三二ないし第一三八号証は弁論の全趣旨によりその成立の真正を認めるほかその余の甲乙各号証は成立につき当事者間に争いがないので、以下各書証を引用するときは、全て書証番号のみによることとする。

第一本件空港の現況・沿革と被控訴人(附帯控訴人)らの居住関係等については、左に付加、訂正するほか、現判決理由B1枚目表一一行目冒頭から同B5枚目裏六行目末尾までの説示のうち、被控訴人(附帯控訴人)ら関係部分(以下引用する場合において同じ。)と同一であるから、これを引用する。

一当審検証の結果によれば、平成三年五月二〇日午前九時三〇分から被控訴人(附帯控訴人)らが居住する本件空港周辺一二個所(1福岡市博多区大字下月隅一五八四番地の一岡澤清一方、2同区上月隅字天神元二五四番地の一上月隈中央公園、3同区下月隅七四四番地の一緩衝緑地帯、4同所五二二番二六一号大谷代替地、5福岡空港ターミナルビル屋上騒音対策課騒音監視装置、6同区大井一丁目一番一号大井中央公園、7同市東区二又瀬二一番二又瀬交差点附近、8同所九番一号内山麗子方、9同区箱崎六丁目二番一八号旧佐々木秀隆方、10同区原田二丁目八番二五号筥松会館、11同区社領二丁目四番一号吉瀬安渡方、12同区郷口町一六番一号筥松小学校・筥松騒音監視塔)において控訴審での検証が実施されたことが認められる。

二被控訴人(附帯控訴人)らのうち、別紙八死亡被控訴人相続人一覧表の相続人欄記載の相続人である被控訴人(附帯控訴人)らが同表死亡被控訴人の死亡によりその相続人として同表記載のとおり死亡した右死亡被控訴人の権利義務を承継取得したことは当事者間に争いがなく、その各相続割合が同表相続割合欄記載のとおりであることは同表認定書証欄記載の各書証によってこれを認めることができる。

三原判決理由B5枚目裏一一行目の「赤字記載に係る部分」から同B6枚目表一行目末尾までを「同一項目の重複記載部分を除き別紙九周辺対策実施状況一覧表記載のとおりであること及び同表不記載の被控訴人とその原審における被承継人関係部分につき原判決別冊5周辺対策実施状況一覧表記載のとおり(ただし、赤字記載部分を除く。)であることは当事者間に争いがなく、当事者間に争いがある同一項目重複記載部分及び右赤字記載部分については別紙一一別表第一記載のとおりである(〈書証番号略〉)。」と改める。

第二本件訴えの適法性及び請求の正当性の有無についての当裁判所の判断は、左のとおり加除するほか、原判決の理由B6枚目表四行目冒頭から同B19枚目表九行目末尾までの説示と同一であるからこれを引用する。

本件差止請求の訴えが適法であるとする被控訴人らの主張及び本件損害賠償請求は国賠法二条一項の要件を充足していないとする控訴人の主張はいずれも失当であり採用できず、当裁判所は右引用にかかる原判決の理由説示を変更する必要を認めない。

一原判決理由B8枚目表一一行目の「定められている。」の次に、「そして、防衛庁長官は、自衛隊法一〇七条五項に基づき、「飛行場及び航空保安施設の設置及び管理の基準に関する訓令」(昭和三三年一二月三日防衛庁訓令第一〇五号。昭和四五年三月一〇日改正。)を定めているが、右訓令には、飛行場及び航空保安施設の設置者を防衛庁長官とするほか、飛行場の設置基準、進入表面、航空保安無線施設の設置基準等、飛行場及び航空保安施設の設置及び管理に関する基準等に関する諸規定が置かれている。」を加える。

二原判決理由B14枚目表九行目冒頭から同枚目裏一二行目末尾までを削除する。

三本件空港の供用の差止請求に係る訴えの適法性について、控訴人は、公共用飛行場における民間航空機についての先例である大阪空港最高裁判決の判旨を援用し、民間航空機、自衛隊機及び米軍機のいずれについても、民事訴訟としては不適法であると主張するのに対し、一部附帯控訴人は、同判決の反対意見の趣旨を利益に援用し、空港周辺住民である同附帯控訴人らが航空行政機関である控訴人運輸大臣の判断による権利侵害の不利益を甘受しなければならない根拠はない等として、その差止めを求める民事訴訟が不適法とされるいわれはないと反論するので、この点に関する当裁判所の管見の一端をここで開陳しておく。

先ず、民間航空機について、空港国営化の趣旨、国営空港の特質に照らし、少なくとも航空機発着の規制そのもの等空港本来の機能の達成実現に直接かかわる管理事項については、国営空港の本旨を没却し又はこれに支障を与える結果を生ずることがないよう、運輸大臣の空港管理権と航空行政権が不即不離、不可分一体的に行使実現されているし、されるべきであるとの解釈に基づいて、国営空港周辺住民が空港管理者たる運輸大臣に対して航空機の発着の差止めを求める請求は、不可避的に航空行政権の行使の取消変更ないしその発動を求める請求を包含することとなるから、通常の民事上の請求としては許されないとする見解がある一方、他方において、運輸大臣の航空機発着のための空港供用行為と運輸大臣の行政規制権の行使としてする航空機の運航そのものの許否処分との密接不可分性を否定し、航空機の発着が空港周辺住民の権利利益を不当に侵害し客観的に違法と判断される場合には、空港の管理主体たる運輸大臣は、飛行許容の行政処分にかかわらず、その発着のための空港の供用を許否できるし、むしろそうすべきであるから、住民のする民事上の差止請求を目して航空行政権の取消変更ないしその発動を求める請求を包含するものとしてこれを不適法視するにはあたらないとする見解があることは周知のとおりである。そして、両見解が最も尖鋭に対立する問題の一つは、運輸大臣の航空行政権と空港管理権の密接不可分性、即ち国営空港における航空機の発着についてする運輸大臣の航空行政処分(特定の時間、態様において航空機を発着させてよいとする公定力のある判断)により空港管理主体としての運輸大臣が法律上支配、拘束されるか否か、またその根拠如何という問題であり、後者の見解が支配、拘束される法令上の根拠はないとするのに対し、前者の見解は、航空機の運航時間、発着等国営空港本来の機能の実現に直接かかわる事項に関しては、航空法制上、航空行政機関としての運輸大臣の規制権限と空港管理機関としての運輸大臣の権限が互いに矛盾なく不可分一体として行使されるべきことが予定されているのみならず、実質的に抵触する判断事項については、主要空港国営化の趣旨に照らして、航空行政機関としての運輸大臣の判断が空港管理機関としての運輸大臣の判断に優越して尊重されるべきものとして位置づけられており、その結果、例えば運航時間等についても空港管理機関たる運輸大臣は航空行政機関たる運輸大臣の判断に反した内容の空港管理規程を定めることは許されず、空港の供用も拒否できないのであって、その意味において、空港管理機関たる運輸大臣は航空行政機関たる運輸大臣の判断に法律上従属し、支配拘束される関係にある等とするもののごとくである。

右両者の見解はいずれも航空行政権と空港管理権に関する傾聴すべき法理論に基づくものであるが、前者の見解が特に航空機行政上の政策的秩序を強調した公法的な立論の色彩が濃いのに対し、後者の見解はあくまで伝統的な不法行為理論の範疇において被害者救済を図ろうとする私法的色彩が濃いものである。それだけに、前者の見解には、本来航空行政権の埒外にあるべき周辺住民がその私権を侵害された場合において、もともと公権力を行使する存在でない空港管理権者に対し何故これを受忍しなければならないかについて、また、空港管理権者たる運輸大臣の判断と航空行政権者たる運輸大臣の判断が抵触した場合において後者が前者に優越する実質的な理由について一義的で明確な説明がないのみならず、公益が公益なる故に私益に優越して保護される理由又は航空行政の政策的配慮が不法行為の被害者救済に優先する理由について納得するに足りる説明がないこと、更には司法的救済手段である行政訴訟の手続的保障について現実性ある理論の解明が不十分であること等今一つ説得力に欠ける理論上の欠陥があるといわなければならないし、後者の見解には、空港の供用が差し止められた結果その使用が不可能となり、そのために仮に差止請求の対象となった運航時間、態様による航空機の発着、運航についての行政処分が右使用不能を理由に事実上できなくなった場合において、それはいわば差止めを命ずる判決の付随的ないし反射的な効果というべきものにすぎず、行政規制権限の行使を拘束し、義務づけを施すことを求める請求を含むものとして違法視するに当たらないとして、航空行政権の制限を止むなきものと観念することが、ともすれば節度ある権利行使を忘れがちな風潮がある現代社会において、現実問題として、果たして国営空港につき航空行政権の円満な遂行と航空法秩序の維持を目的とする航空法の趣旨、制度に反する結果とならないかどうかについて、なお一抹の危惧の念を抱かざるをえないのであって、ともに解釈論として一長一短のきらいなしとしないのである。

思うに、国営空港における航空行政権と空港管理権の不可分性ないし航空行政権の空港管理権に対する優越性、拘束性の問題は法原則を異にする公法と私法が深く関連、交錯する分野の問題であり、優れて公益と私益の対立衝突する分野の問題である。そして、公益なくして真の私益はなく、私益なくして真の公益なき時代において、また価値観が多様化したなかで公益と私益の絶対的な共存関係が要請される社会において、いわゆる公法私法の概括的二元論によることなく、航空機の発着差止めを巡って生ずべき公益私益二つの法益の関係を一義的に無理なく調和させ、かつ、基本的人権を害することなく公共の福祉の実現を図ることは決して容易な業ではなく、両者の対立関係が激しければ激しいほど尚更然りといわなければならないが、ぎりぎりの利害を調整するに当たっては公益ないし公共の福祉を私益ないし基本的人権に優先させることが必要である場合も当然ありうるところである。しかし、その場合は、解釈方法論的に可能な限り、私益ないし人権に対する実質的な判断を与える機会を現実性のある法手続として保障し易い場面又は段階、例えば公共性と受忍限度の実体的判断の段階においてであることが望ましいのであって、権利保護要件等訴訟要件の存否ないし行政訴訟手続又は狭義の民事訴訟手続の可否等を判断する場面、段階において公益ないし公共の福祉を私益ないし人権に優先するとして訴え自体を不適法と解することにはできるだけ慎重でなければならない。その意味において、法解釈方法論的にも前者の見解には後者の見解以上に釈然としないものがあるといわなければならないが、ただいずれの見解を採るにしても、公法的には航空法秩序の維持に配慮するとともに周辺住民の騒音被害に対する救済を忘れず、私法的には航空機騒音の被害者保護に配慮するとともに公共性と航空法秩序全体の下における受忍義務のあるべき姿を考え、ともに当該空港における航空機騒音の実態に則して公益と私益の調和を図り、できるだけ公法、私法の整合性を失わない解釈理論の構成に心がけるべきであろう。以上の次第にて、当裁判所は、前引用の原判決理由説示のとおり、この際法解釈として差止請求について民事上の請求不適法説を採用するものではあるが、ここでは控訴人行政側と被控訴人住民側の双方に対して相手方に対する理解と協力の必要性を訴えるとともに、なお今後の問題として、この見解には前記のとおり法理論上解明を要する多くの問題点が残されていることを指摘するに止めておきたい。

次に、自衛隊機について、その運航時間、運航態様等発着、運航に関し、控訴人運輸大臣、防衛庁長官の本件空港管理権限と控訴人内閣総理大臣、防衛庁長官の防空行政上の命令、承認の権限(特定の時間、態様において自衛隊機を発着させよ、又はさせてよいとする公定力ある判断)との関係は、民間航空機について右に説示した空港管理権と航空行政権の関係に酷似しており、その不可分一体性ないし防空行政権の空港管理権に対する優越性、拘束性の問題は、統治行為論ないし政治問題としての色彩が濃い自衛隊機の運航時間の設定、発着又は差止めを巡る法律関係の公法的性格もあって、民間航空機の場合以上にこれを重視し、自衛隊機の差止めは行政権の取消、変更、発動を求める請求を包含し、狭義の民事請求は不適法であるとする見解がある一方、他方において、自衛隊機の発着、運航そのものの性質は、国民に対する公権力の行使を本質的内容としない内部的な職務命令とその実行行為にすぎないもので公定力ある行為に非ず、従って、不法行為の被害者である空港周辺住民が加害者である空港管理主体に対し航空機騒音被害の差止めを求めるのに民事請求上何の障害もないとする私法的観点からの見解があることは、これまた周知のところである。

当裁判所は、自衛隊機についても、前引用の原判決理由説示のとおり、民事上の差止請求不適法説を採用するが、これについても法理論上民間航空機におけると同一のなお解明を要すべき多くの問題点が残されていることを指摘しておく。

第三侵害行為、被害及び騒音対策についての当裁判所の認定判断は、左に付加訂正するほか、原判決理由B19枚目表一一行目の冒頭から同B44枚目表四行目末尾まで、同六行目冒頭から同B88枚目裏一行目末尾まで及び同三行目冒頭から同B118枚目裏三行目末尾までと同一であるから、それぞれこれを引用する。

控訴人は、侵害行為、被侵害利益及び被害の各不存在並びに控訴人の騒音対策、殊に周辺対策の完全性を主張するが、当裁判所の認定判断はその大要において右引用の原判決理由説示のとおりであり、ここでこれを変更する必要を認めないので、控訴人の右主張はいずれもこれを採用することができない。

一原判決理由B21枚目表九行目の「WECPNL(加重等価騒音レベル)」を「WECPNL(Weighted Equiva-lent Continuous Perceived Noiss Lebelの略)(加重等価騒音レベル)」と、B30枚目表一一行目冒頭から同B32枚目裏二行目末尾までを次のとおりそれぞれ改める。

「 (二) 離発着回数

昭和四七年以降の本件空港における民間航空機の離発着回数は、原判決別冊6引用図表別表(一)及び別紙一〇本判決引用図表別表(一)のとおりであり、これらによれば、昭和四七年の年間離発着回数は、五万七四二二回であり、その後漸増の傾向にあったが、昭和五〇年四月の山陽新幹線博多駅乗入れに伴い、昭和五〇年には前年度より約一割程度減少した。翌五一年からはまた増加傾向となり、その後の国際線専用ターミナル開設等に伴い国際線が増加し、平成元年には、これまでで最も多い八万四三二二回という年間離発着数を示し、昭和四七年に比べると約四七パーセントの増加となっている。

また本件空港における一日の離発着回数は、前記各別表(一)一日平均欄等記載のとおりであり、昭和四七年当時一五七回だったものが、平成元年には二三一回と増加している。更に一日の時間帯ごとの離発着回数は、昭和六〇年八月のダイヤによれば、原判決原告ら準備書面引用図表別表(四)のとおりである。同表によれば、最多離発着時間帯は午前一〇時から午前一一時までの一九回であり、この間3.15分に一回の割合で離発着していることになる。次いで午後六時から午後七時までの一七回、そして午後三時から午後四時まで、及び午後四時から午後五時までの各一六回となっている。したがって、同表によれば、日中(七時から一九時まで)は4.61分に一回、夜間(一九時から二二時一〇分まで)は約九分に一回の割合で離発着を繰り返していることになる。

なお、本件空港における最終便は、昭和五一年三月には、午後一〇時を過ぎる到着便があったが、同五九年以降は、夏季の一時期を除き、午後九時台に到着便が四便程度存するのみ(昭和六〇年一〇月時点において機種としてDC―一〇、L―一〇一一、B―七四七を使用)となっており、その後、翌日午前七時まで定期便の運航はない。

(三) 機種の変遷

この時期に本件空港に乗り入れたジェット機の機種をみると、当初は、前期に引き継ぎ、Dc―八(二三四席)、ボーイング七〇七(二三四席)、同七二七(一七八席)、同七三七(一二六席)、Dc―九(一二八席)等が使用されていた。

しかし、昭和五〇年七月に騒音基準適合証明制度が採用されたことにより、本件空港にも右基準に適合する航空機が逐時導入され、やがて多数を占めるようになった。右導入状況は、原判決被告準備書面引用図表第11表のとおりであり、これによれば、昭和四九年四月よりボーイング七四七SR(五三〇席)、ロッキードL一〇一一(三二六席)が国内線に就航したのを始めとして、同五〇年五月にL一〇一一が、同年一〇月にA三〇〇(二八一席)がそれぞれ国際線に、同五一年七月にDc―一〇(二七三ないし三七〇席)が国内線に、同五六年三月にA三〇〇が国内線に、同五七年六月にDc―九―八一(一六三席)が国内線に、同五八年八月にボーイング七六七(二七〇席)が国際線に、同五九年五月に同機が国内線に、同六〇年一〇月にボーイング七四七が国際線に、各就航した。また従来より使用されていたボーイング七二七、同七三七についても、昭和五〇年より改修に着手され、同五二年九月には、右改修が完了した。

そして、昭和五八年六月における本件空港に就航している航空機の機種構成は、原判決引用図表別表(八)のとおりであり、同六一年一一月におけるそれは、同別表(九)のとおりであり、同六二年七月におけるそれは、原判決被告準備書面引用図表第20表のとおりであり、同六三年、平成元年及び同二年の各七月におけるそれは、別紙一〇本判決引用図表別表(一一)、(一二)及び(一三)のとおりである。右各表によれば、改造機種も含めた騒音基準適合機の占める割合は、昭和五八年六月において既に相当高くなっており、同六一年一一月においては、殆ど右基準適合機によって占められるに至り、平成二年七月以降においては、ジェット機中に占める騒音基準適合機の割合は一〇〇パーセントに達し、低騒音機の割合も八二ないし八四パーセントに達した。」

二原判決理由B36枚目表末行目の次に改行して次のとおり加える。

「(5) 当裁判所が平成三年五月二〇日実施した検証に際し、屋外、屋内において航空機騒音の測定(建物についてはいずれも防音工事済み)を行った結果は、別紙一〇本判決引用図表別表(一六)の一と(一六)の二のとおりである。しかして、右検証の結果によれば、被控訴人番号2-105岡澤清一方及び被控訴人番号2-58内山麗子方では、航空機が頭上真上を通過するときの屋外の騒音は普通の会話が困難な程度であったが、屋内窓ガラスを閉めた状態では普通の会話に支障はないこと、被控訴人番号1-138旧佐々木秀隆方屋外及び二又瀬交差点附近では、頭上通過時における会話は困難であるとともに直近通過時には機体のマークもはっきりみえる状態であること、筥松会館では、航空機が会館上空を通過する際垂直尾翼のマークをはっきり認識できるが、窓を閉めると外部騒音は殆んどきこえず、防音工事の遮音効果が充分であること、被控訴人番号1-100吉瀬安渡方では、航空機の飛来時において、屋外は普通の会話に支障を生ぜしめる程度の騒音があるが、屋内は窓ガラスを開ければ航空機の接近に伴うキーンという金属音、ゴーという重圧音が飛来の都度三〇秒位続き、その間テレビの画像に若干の乱れを生ずるものの、窓ガラスを閉めれば騒音は普通の会話に支障はない程度に減少しその時間も短縮されること、筥松小学校では、航空機飛来時の校庭は普通の会話はできない状態であったが、教室内で窓ガラスを開ければ約三〇秒の金属音と重圧音があるものの、窓ガラスを閉めれば正常な授業に殆ど支障を来たさない状態まで騒音は減少されることがそれぞれ認められる。」

三原判決理由B36枚目裏一行目冒頭から同B37枚目裏四行目末尾までを次のとおり改める。

「(八) 騒音コンター(等音圧線、以下、単に「コンター」という。)

〈書証番号略〉と当審証人杉江昭治の証言及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

運輸省航空局は、航空機騒音が空港周辺に及ぼす影響度を適正に評価するに当たり、評価方法として空港周辺に格子状の測定点を配置し、これらの実測値を用いて各騒音レベルのコンターを求める方法が不正確で実用的でないため、昭和五三年航空機騒音の変動要因となる諸因子に対して統計的なデータを基に代表的或は標準的な条件を設定し、その上で各レベルの騒音コンターを予測できるようなコンピュータプログラムを作成使用する手法を開発した。右手法は機種別騒音コンターの予測方法とほぼ同様であるが、航空機の型式等が複数になるのでそれだけ複雑となり、予測しようとする空港に発着する航空機の型式、飛行回数、飛行経路、飛行時刻等に関し、年間を通じての標準的な条件を設定してW値を算定する。特に飛行経路の設定については、二年ないし三年の平均的風向きにより年間平均の滑走路方向別使用割合を設定するほか、航空機の飛行プロフィルに影響を及ぼす運航重量については、季節的な旅客需要の変動を考慮し、航空機の型式、飛行回数及び飛行時刻については予測時点の条件を設定したうえ、全て電子計算機で処理し、ディジタル・プロッターによるコンターを作図するのである。そしてその正確性を担保するため、例えば前記(七)(2)のような騒音実態調査を行っているが、両者の間に大差なく、コンター図は逐年精度の高いものとなっている。尤も、昭和四八年コンターは技術開発が不充分な故もあってその後のものと較べて精度は必ずしも高くないものの、後記騒音対策の項で説示する昭和四九年八月三一日の運輸省告示第三五五号による第一種、第二種及び第三種区域の各区域指定の基礎となったものであり、これを含め、本件空港周辺のコンター図面には昭和四八年、同五六年、同五八年、同六一年、平成元年等があるが、右のうち昭和五六年コンターは昭和五七年三月三〇日の運輸省告示第一六二号による第一種区域の追加指定につきその基礎となったものである。しかして、右各図面によれば、本件空港周辺で航空機騒音の影響を受ける地域は、滑走路延長線に沿って南北に細長く延びる形となっており、北側には博多湾に、南側は大野城市水城地区にまで至るが、滑走路延長線の東側及び西側の地域では、その影響の及ぶ範囲が狭い(なお、昭和四八年から同五六年までの間のコンター図、殊に後記のとおり本件空港が我が国に返還された昭和四七年四月一日以降において航空機騒音がピークに達したとみられる昭和五三、四年頃のコンター図は何故か証拠として提出されていない。)。

ところで、本訴損害賠償請求に関係がある昭和四八年、同五六年、同五八年、同六一年、平成元年の各コンター図は原判決別冊4被告準備書面引用図表第12図、第13図、別紙一〇本判決引用図表別表(一四)、(一五)、(一七)、(一八)の一のとおりであるが、右別表(一八)の一の平成元年コンターは、同表(一八)の二ないし(一八)の六記載のとおり、一〇箇所の測定地点において平成元年九月一一日、一二日、一四日の三日間に亘り実施した実態調査の実測値とほぼ符号し精度の高いことを窺わせている。そして、前記(三)の低騒音機種の使用及び(五)の運航方法の改良の結果、本件空港周辺地域における騒音コンターは、原判決別冊4被告準備書面引用図表第12図のとおり昭和四八年コンターと比較して昭和五八年コンターはかなり縮小しており、更に、同図表第13図のとおり、昭和六一年コンターは昭和五八年コンターに比してより縮小している。そして、昭和四八年当時と比較すると、昭和六一年においてはW値で約四ないし七低下しており、昭和四八年のW値八五のコンターは昭和六一年にはおおむねW値八〇のコンターまで低下している。また、右各年コンターの同一W値面積は逐年縮小されており、昭和四八年、同五八年、平成三年各コンターのW値面積対比は別紙一〇本判決引用図表別表(一四)のとおりであるが、同表によれば、昭和四八年コンターの面積を一〇〇とすれば、W値七五で昭和五八年五七、平成元年四三、W値八〇で昭和五八年六二、平成元年四四、W値八五で昭和五八年五八、平成元年四〇であり、平成元年コンターでは昭和四八年コンターの半分以下の面積となっている。更にまた、昭和五二年から平成元年までの筥松小学校及び大野北小学校の実測W値は別紙一〇本判決引用図表別表(一)のとおりであるが、同表によれは、発着回数及び乗降客数の増大にかかわらず筥松小学校では昭和五二年にW値90.2、平成元年にW値84.8、大野北小学校では昭和五二年にW値82.7、平成元年にW値77.8と次第に騒音の軽減する傾向がみられ、右傾向は前記各コンター図の正確性を全体として裏付けるものである。

以上により、この時期における航空機騒音の状況を通覧すれば、昭和四七年頃、本件空港周辺は、前期に引き続き誠に激しい航空機騒音に暴露されており、その後離発着回数の増加もあり、右騒音は、なおその激しさを増し、昭和五三、四年頃にこれが頂点に達したといえるが、右時点以降、ようやく機材改良等の音源対策が奏功し始め、昭和五八年頃には、右騒音は相当軽減されるに至り、その後もやや軽減される傾向にあると認められる。」

四原判決理由B45枚目裏六行目の次に改行して次のとおり加える。

「この点につき、控訴人は、被控訴人らの被害の内容、程度は当然被害者ごとの異なるにかかわらず個別の立証がなされてないし、共通の被害についても被害を共通にする理由と範囲が明らかでないから被害の立証がないといわなければならない旨強調する。

ところで、本件損害賠償の請求は、被控訴人ら各個人が有する人格権を根拠とするものであるから、前期認定の航空機騒音等が被控訴人ら各個人にどのような被害を与えているかをそれぞれ個別に判断しなければならないことは当然であるところ、確かに、本件空港周辺地域に居住している被控訴人らの間でも、その個々の生活条件は当然に異り、従って航空機騒音等に暴露される内容、程度にもかなりの違いを生ずることは容易に推知できるから、被控訴人ら全員に共通する被害といってもその範囲、内容は必ずしも明確なものといえない部分のあることは否定できないところである。しかし、侵害行為は同一であり、被控訴人らの人格権、本件に即して具体的にいえば騒音、排気ガス、振動等により不快感、精神的苦痛、睡眠妨害その他の生活妨害を受けることなく平穏安全な生活を営む権利も被控訴人ら個々人の生活条件の違いにかかわらず基本的な部分においては同一の内容と程度を有するものであるから、結局被控訴人らの被害も相当部分までは同一の内容と程度のものということができる。換言すれば、無形の被害が集団的に発生している場合において、被害の内容と程度を侵害行為の態様・程度と平均的被害の最小限度の生活条件との関連において共通する範囲内のものとして把握することが実際的処理として許されないことはないと解すべきであるが、被控訴人らにおいて主張し請求するところのものは、被控訴人らはそれぞれさまざまの被害を受けているけれども、本訴において各自が受けた具体的被害の全部について賠償を求めるのではなく、それらの被害のうち被控訴人ら全員に共通する最小限度の被害、即ち、一定の限度までの精神的被害、睡眠妨害、静穏な日常生活の営みに対する妨害及び身体に対する侵害等の被害について各自につきその限度で慰謝料という形でその賠償を求める、というのであるから、被害の立証に当たっては、被控訴人らの全員について各人別にそれぞれ個別的な被害を立証する必要はなく、被控訴人らのうち一部の平均的な住民について前記の被害が立証されるならば、他の被控訴人らについても同種同等の被害が立証されたものというべきである。この点の控訴人の主張は当裁判所の採用しがたいところである。」

五原判決理由B95枚目表二行目の「黒色線」を「濃い紫色線」と改め、同B96枚目裏二行目冒頭から同五行目末尾までを「以上の区域指定は、施行令六条、施行規則一条所定の方法で算出されるW値による騒音コンター又は実測値(以下「コンター等」という。)を基に、道路、河川等現地の状況を勘案して、コンター等より若干広目に、基本的には直線によりなされているため、その範囲を現地において具体的に特定することは然程困難な作業ではない。」と改めたうえ、続けて次のとおり加える。「昭和四八年、同五六年及び平成元年各コンターの精度及び航空機騒音防止法の各区域指定との関係等については先の第三の一4(第三期)の(八)騒音コンターの項において説示したが、コンター等と指定区域の範囲の関係について再説するに、第一種区域、第二種区域及び第三種区域の各範囲とその指定の経緯は右説示及び原判決別冊4被告準備書面引用図表第2図告示年月日欄記載のとおりである。しかして、新たな区域指定又は追加指定は原則としてその都度指定前直近のコンター等のW値に則って行われるため指定区域のW値ないし騒音の実際と直近コンター等のW値は比較的一致し易く昭和四九年八月三一日告示の第一種区域の指定の範囲は昭和四八年コンターのW値八五以上、第二種の区域は同様W値九〇以上、第三種の区域は同様W値九五以上の各範囲と、昭和五二年四月二日、同五四年七月一〇日各告示の第一種区域追加の範囲はコンター等のW値八五以上、同八〇以上の範囲と、昭和五四年七月一〇日告示の第二種区域の追加の範囲はコンター等のW値九〇以上の範囲と、昭和五七年三月三〇日告示の第一種区域追加の範囲は昭和五六年コンターのW値七五以上の範囲とそれぞれ指定時点において比較的良く一致していたと一応考えられる。しかし、指定後の騒音の激化又は軽減により指定区域のW値とコンターのW値の間にずれを生じ、殊に航空機騒音がピークに達した昭和五三、四年以後は騒音が次第に軽減され、そのためコンター等のW値と既指定区域のW値の間にずれを生ずることとなったが、区域指定の主目的が航空機騒音防止法の規定に基づく周辺対策にあり安定性に対する行政上の配慮もあって、コンター等のW値の範囲が縮小されたからといって、原則として一旦指定された区域の範囲がコンター等のW値に合わせて縮小されることはなく、当然のことながらその限りにおいて各既指定区域内には当該指定のW値に満たない区域が含まれることとなった。そして、前示騒音コンターの面積対比からして昭和五八年コンター以降はその傾向が顕著である。換言すれば、昭和五七年三月三〇日告示時点における各種区域の範囲は昭和五六年コンターのW値の範囲と比較的良く一致するが、その後の昭和五八年、同六一年、平成元年各コンターのW値の減少により、各種区域のW値と右各コンター等のW値の間にずれを生じ、特に第一種区域にあってはそのなかにかなりの範囲のW値七五未満の区域を生ずる結果となった。」

六原判決理由B98枚目表八行目冒頭から同枚目裏末行目末尾までを次のとおり改める。

「 (二) ところで、航空機製造会社にあっては、国際的な騒音規制を見越して、以前から右の基準に適合する大型航空機(被告のいう低騒音大型航空機)を生産しつつある現状にあったので、控訴人は、国内航空会社に対する行政指導によって、昭和四八年頃(前記法改正の施行前)から右低騒音大型航空機の積極的な導入を図り、もって航空機騒音を軽減する方策を進めてきた。また、昭和五〇年代の中頃からは新たに開発された中型の低騒音型機についても積極的な導入を指導してきた。このような方針に沿って、国内線には昭和四八年一〇月以降右低騒音型航空機を逐次就航させており、平成二年七月末現在、日本の定期航空運送事業者が使用するジェット機中に占める同型機の割合は、別紙一〇本判決引用図表別表(三)のとおり八六パーセントであり、騒音基準に適合する改造された機種も含めると一〇〇パーセントになっている。これを航空会社別にみると、日本航空はボーイング七四七型六五機とマクドネル・ダグラスDc―一〇型一六機、ボーイング七六七型一四機を、全日空はボーイング七四七型二二機とロッキードL―一〇一一型一一機、ボーイング七六七型四三機を、日本アジア航空はボーイング七四七型三機とマクドネル・ダグラスDc―一〇型四機を、日本貨物航空はボーイング七四七型四機を、それぞれ導入している。(〈書証番号略〉)。」

七原判決理由B100枚目裏六行目冒頭から同B101枚目裏六行目末尾までを次のとおり改める。

「 (五) なお更に、控訴人は、改造することが困難であるマクドネル・ダグラスDc―八型機については、できるだけ早期にその使用をやめるよう行政指導を行った結果、別紙一〇本判決引用図表別表(四)のとおり、日本の定期運送事業者全体について、昭和五〇年当時の同型機の保有数が四四機であったものが、同六二年では六機となり、同六三年一月一日以降現在まで〇機となっている(〈書証番号略〉)。

(六) 本件空港における低騒音型航空機の就航状況については、前記第三、一、4(第三期)(三)で認定したとおり、昭和五八年六月において改造機種を含め、騒音基準適合機の占める割合は相当高く、同六一年一一月に至り、殆どの航空機が、また平成二年七月以降全部の航空機が右基準適合機となったということができる。

以上によれば、本件空港において音源対策としての機材改良による騒音軽減対策は、昭和四九年度から次第にその効果を挙げ始め、同五八年は相当程度の効果が現れ、同六一年一一月には右対策が深く浸透するに至り、かなりの程度に騒音被害軽減の役割を果たしているものと認められる。」

八原判決理由B112枚目表九行目の「98.6パーセントに」の次に「、平成元年の時点では民家防音工事の進捗率は94.9パーセントに(〈書証番号略〉)それぞれ」を加え、同一一行目から同一二行目の「周辺対策実施状況一覧表」を「別紙九周辺対策実施状況一覧表の民家防音工事助成完成年月日室数補助額欄」と改める。

九原判決理由B113枚目表一〇行目の次に改行して次のとおり加える。

「また、当裁判所が実施した検証の際における屋内と屋外とのレベル差は、別紙一〇本判決引用図表別表(一六)の一の騒音レベル内外差欄記載のとおりであるところ、屋内外の航空機騒音のピークレベルのパワー平均値の差とは、とりも直さずパワー平均された遮音量を意味するから、被控訴人番号2-105岡澤清一方、同2-58内山麗子方及び同1-100吉瀬安渡方につき、〈書証番号略〉の平成元年コンターにより推定される屋外W値から右別表(一六)の一記載の遮音量のパワー平均値を控除して推定される窓を閉めた状態での屋内W値を算出すれば、岡澤方は四六(77−31=46)、内山方は四六(77−31=46)、吉瀬方は四八(80−32=48)となり、いずれも充分な防音効果がみられる。そして、右検証場所は特別な防音工事が実施されたものではないから、他の民家防音工事もほぼ同一の成果があると認められるほか、公共施設である筥松会館及び筥松小学校における遮音効果も充分であり、特に教育施設である筥松小学校の教室防音工事の効果は極めて顕著であることが認められる。右の事実から防音工事全体の減音効果を推量すれば、個々的に家屋の構造ないし老朽化等による遮音効果不全の事例はありうるとしても、全体としては防音工事による遮音効果としては充分の成果を挙げていることが窺える。」

一〇原判決理由B113枚目表末行目の「昭和六二年三月末日の時点」を「平成元年の時点」と、同B115枚目表五行目冒頭から同枚目裏一三行目末尾までを次のとおりそれぞれ改める。

「(3) 控訴人が昭和六一年度までに本件空港周辺において実施した移転補償の実績は、原判決別冊4被告準備書面引用図表第30表記載のとおりであり、合計一五七四件、補償金総額三九二億一五九七万五〇〇〇円であり、平成元年までに移転補償が完了した世帯数は八〇六世帯であり(〈書証番号略〉)、また、空港周辺整備機構が昭和六一年三月までに実施した代替地造成事業は右図表第29表記載のとおり、合計一六八区画、九万八一七二平方メートル、総事業費四六億九〇〇〇万円である。

なお、被控訴人らのうちで、移転補償を受け移転した者は、昭和六三年三月末現在で一六世帯、四九人であり(〈書証番号略〉)、平成三年三月末現在で一九世帯、五五人である(〈書証番号略〉)が、その内容の詳細は別紙九周辺対策実施状況一覧表の移転補償契約年月日補償額欄記載のとおりである(〈書証番号略〉)。

以上によれば、移転補償は、航空機騒音被害から免れるには最も効果的な方策であるが、同対策は、特に被控訴人らとの関係においていえば、必ずしも充分の進展をみていないといわざるを得ない。その理由として、前記のように移転補償金は、「公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱」に基づいて算定されるところ、同要綱は、近傍類似の価格を基準とするが、移転対象区域の地価は、福岡市周辺地域においては比較的廉価であるため、移転補償金が低くならざるを得ないところにその一因があると考えられる。」

一一原判決理由B117枚目表末行目冒頭から同枚目裏一行目末尾までを「被控訴人らに対するテレビ受信料助成の実施状況については別紙九周辺対策実施状況一覧表の該当欄記載のとおりである(〈書証番号略〉)。」と、同末行目冒頭から同B118枚目表一行目末尾までを「被控訴人らに対するテレビ音量調節器設置の実施状況は別紙九周辺対策実施状況一覧表の該当欄記載のとおりである(〈書証番号略〉)。」と、同八行目冒頭から同九行目末尾までを「被控訴人らに対する騒音防止電話設置の実施状況は別紙九周辺対策実施状況一覧表の該当欄記載のとおりである(〈書証番号略〉)。」と、同枚目裏二行目の「直接的な効果」を「決定的又は抜本的効果」と、それぞれ改める。

第四違法性(受忍限度)、地域性及び危険への接近、将来の損害賠償の請求に係る訴えの適法性の有無並びに消滅時効完成の有無についの当裁判所の認定判断は、左に付加、訂正するほか、原判決理由B118枚目裏五行目冒頭から同B124枚目表八行目末尾まで、同一〇行目から同B125枚目裏末行目末尾まで、同B126枚目表二行目冒頭から同B127枚目表三行目末尾まで及び同五行目冒頭から同B130枚目表九行目末尾までと同一であるから、それぞれこれを引用する。

一原判決理由B120枚目裏九行目の「しかし、」から同一二行目末尾までを次のとおり改める。

「しかし、その後発着回数は漸増傾向にあるものの、機材の改良、航空機の大型化等の騒音対策が進展したため、昭和五八年頃には航空機騒音被害は相当程度軽減され、現在に至っている。」

二原判決理由B122枚目表六行目の次に改行して次のとおり加える。

「控訴人は、本件空港の国際的、国内的重要性を指摘し、これが福岡、九州、西日本等広域的経済生活圏の中核として、経済、社会、文化等多方面の進歩、向上のために必要欠くべからざる存在であるのみならず、航空機利用者だけでなく被控訴人ら地域住民の日常生活の維持、存続ないし生活水準の向上にとっても必要不可欠の役割を果たしている点において、本件空港の公共性ないし公益は被控訴人らの個人的不利益に優先するものであり、本件のように被控訴人らの個人的不利益が身体的被害等重大な不利益でなく単なる日常生活における若干の支障にすぎない場合は尚更然りであるから、現在程度の航空機騒音は被控訴人らにとって受忍限度内のものであり違法性はない旨、また、本件空港の規模、社会的、経済的、地域的、地理的条件、騒音状況と騒音対策等の諸事情は大阪空港と全く異るのであるから、大阪空港の社会的有用性が減殺されるとした大阪空港最高裁判決の公共性に関する判旨をそのまま参考にすることは許されない旨、縷々強調する。

確かに、本件空港の公共性ないし公益上の必要性の内容は単に航空機による迅速な公共輸送の必要性という一面的な評価で足りるものではなく、国際的、国内的にみて本件空港が経済、社会、文化等多方面において地域社会に如何に貢献し、地域住民にとって如何に有用であるかについて多面的な評価を必要とすることは控訴人の主張するとおりである。そして、本件空港が国際的、国内的にみて経済、社会、文化等多方面において被控訴人らを含む地域住民にとって有用な存在であることもこれまた控訴人指摘のとおりであろう。しかしながら、だからといって本件空港が被控訴人ら地域住民の日常生活の維持存続にとって必要不可欠な存在であり、その公共性ないし公益が被控訴人ら地域住民の騒音被害に絶対的に優先すると必ずしもいえないことは大阪空港最高裁判決の昭和五六年当時と変りはないのであり、本件空港によってもたらされる便益が被控訴人ら地域住民の日常生活にとって必要不可欠とは到底いえないばかりか、本件空港の存在によってもたらされるべき間接的な便益の故に被控訴人ら一部地域住民が被るべき直接的な騒音被害をその犠牲において受忍しなければならない道理は全くないというべく、このことは差止請求ではなく損害賠償請求における受忍義務においては殊更に見易い道理である。また、大阪空港最高裁判決によって空港の社会的有用性の減殺理由とされた諸般の事情について、これを大阪空港の場合と比較すれば、本件空港の規模は相対的に小さく、航空機騒音防止法の指定区域内の世帯数も少なく、また、平成元年コンター内の世帯数は益々減少していること(〈書証番号略〉)、本件空港における騒音対策の歩みとしては、大阪空港の場合と比較して早目、早目に効果的な音源対策、周辺対策が講じられてきた経緯があることは確かに控訴人主張のとおりであるかもしれない。しかしながら、控訴人の右主張はあくまで本件空港と大阪空港の比較において有意であるにすぎず、それなるが故に本件空港につき被控訴人ら空港周辺住民に対し騒音被害を受忍することを要求すべき社会的有用性があるとすることはできない。本件空港の供用によって被害を受ける地域住民は、前示のとおり福岡は福岡なりにかなりの多数にのぼっており、平成元年コンターに基づく被害世帯数が従前より減少しているからといっても本訴損害賠償請求は昭和四〇年代に遡るばかりか、その被害内容も広範かつ重大なものというを妨げず、また、騒音対策については、周辺対策にしても移転補償が充分の進展をみたといえないことは既に引用した原判決理由B115枚目裏五行目以下の説示のとおりであり、その他の周辺対策はもとより、全ての音源対策はその性質上所詮完璧を期しがたいものであるからである。この点の控訴人の主張は失当であり採用することができない。」

三原判決理由B122枚目表七行目冒頭から同B123枚目裏末行目末尾までを次のとおり改める。

「四1  以上に基づき、本件における航空機騒音の受忍限度の基準値を定めることとするが、航空機騒音の評価法については、これまで種々のものが考案されているころ、騒音レベル、発生頻度、昼夜間における影響度の差異など複雑な要素を総合考慮して一日の総騒音量を数値で示すWECPNL方式が最も客観的であり、信頼できるものといえよう。現に、同方式は、ICAO(国際民間航空機構)によって国際騒音基準単位として採択されたものであり、我が国においても公害対策基本法に基づく航空機騒音の環境基準や、航空機騒音防止法に基づく区域指定の基準値算出法として用いられているのであって、これらの事実からしても、同方式に基づいて右受忍限度の基準値を定めるのが最も有用且つ相当であると考えられる。

控訴人は、「航空機騒音に係る環境基準」が採用した評価値であるW値は、もっぱら感覚的なうるささの訴えの強弱によって定められており、健康被害との関係等は明らかでないのであるから、そもそもWECPNLを受忍限度判断の基準値として使用するのは相当でないと主張するが、前示のように、本件において認められる被害は、身体傷害ではなく、うるささに基づく不快感、睡眠妨害及びその他の生活妨害なのであるから、WECPNL方式はまことに相当な方式というべきである。

2  そこで、WECPNL方式に基づいて、本件における受忍限度の基準値を検討するに、

(一)  先ず、「航空機騒音に係る環境基準」が類型Ⅰの地域(専ら住居の用に供される地域)においてはW値七〇以下、類型Ⅱの地域(Ⅰ以外の地域であって通常の生活を保全する必要がある地域。被控訴人及び承継前の被控訴人は全てこの地域に居住していた。)においてはW値七五以下と定めていることが充分に考慮されなければならない。確かに、右基準は「人の健康を保護し、及び環境を保全する上で維持されることが望ましい基準」(公害対策基本法九条一項)であって、国が航空機騒音に対する総合的施策を進める上で行政上の達成目標であるというべきであるから、右のW値を超える騒音が直ちに違法性を保有すると解することはできない。つまり、右基準値をもってそのまま受忍限度の基準値とすることは適当ではないというべきであるが、右の基準値は国自らが慎重な考慮に基づいて騒音対策を必要とする基準として定めた値であるから、受忍限度の決定に対しても重要な意味をもつものというべきである。しかも、右基準値については、達成期間が定められており、本件空港においては、一〇年を超える期間内に可及的速やかに達成されるべきものとされ、中間改善目標として五年以内にW値八五未満とし、W値八五以上となる地域においては屋内でW値六五以下とすること、また一〇年以内にW値七五未満とし、W値七五以上となる地域においては屋内でW値六〇以下とすることと定められているが、右環境基準が設定されてから今日まで約一八年間が経過し、中間改善目標期間はもちろんのこと、達成期間も到来したといって差支えないことを看過する訳にはいかない。以上の考察から明らかなように、受忍限度の基準値は右環境基準の基準値を上廻ることは止むを得ないとしても、これを大幅に超えることは許されないものと考える。

また、航空機騒音防止法も、防音工事助成措置の必要な第一種区域を本件空港周辺において指定しているが、その基準となるW値は、当初八五であったが、その後八〇に改正され、更に七五に改正されている。右の指定は、控訴人自らが「航空機の騒音による障害が著しいと認め」(同法八条の二)た結果、防音工事等諸種の騒音対策の現実の実施のためになしたものであるから、このことも充分考慮されるべきである。

(二)  次に、公共性と地域特性を受忍義務の加重要素としてどの程度考慮すべきかについては議論の存するところであるが、本件空港が国際的、国内的各種交通網の一環として存在し、単に航空機による迅速な公共輸送の必要性という観点からだけではなく、福岡県はもとより我が国の全国総合開発計画における文化的、経済的、社会的な結び目という観点から今や必要不可欠な存在であることは〈書証番号略〉から疑う余地がない。従って、たとえ前記環境基準ないし航空機騒音防止法の区域指定のW値の決定に当たり行政機関からある程度考慮されているからといっても、受忍限度の基準値の決定につきその公共性を全く参酌しない訳にはいかない。また、地域特性についても、被控訴人らの居住地域である福岡市博多区、東区内の類型Ⅱの地域は、類型Ⅰの住宅専用地域とは異り、もともとある程度の生活騒音の発生が予想されている地域であり、それなりの生活騒音を覚悟して生活することを予期されている地域であるといえる。そして、右の生活騒音から空港周辺における航空機騒音が全く除外されるものでないこともこれまた明らかである。こうした地域的特性については、例えば都市計画法においても都市計画区域を住居専用地域、商業地域、工業地域等各種の用途地域に分類し、それぞれの地域特性に応じた開発行為等の規制等を行うことにより騒音を含めた生活妨害行為についても一定の規制と序列を予想しているのであって、地域特性により受忍限度のW値にも若干の相違を生ずるのは当然であるというべく、公共性と同じ意味において被控訴人らの居住地域の特性は受忍義務の加重要素としてこれまた若干の考慮がなされて然るべきであり、その限りにおいて被控訴人らが類型Ⅰの住宅専用地域と比較してある程度高い受忍義務を負担すべきことは止むを得ないというべきであろう。

(三)  以上(一)、(二)で検討したところに従い、騒音の態様と程度、騒音被害の性質と内容、空港供用の公共性と程度、被控訴人ら居住地の地域的特性、騒音対策の内容と成果等の諸事情を総合的に考察し、後記損害賠償請求可能期間である昭和四八年三月三〇日から当審口頭弁論終結の日である平成三年八月三〇日までの期間との関係において一定の受忍限度の基準値を定めるとすれば、本件空港周辺の航空機騒音被害は、少なくともW値八〇程度以上をもって当該騒音に暴露された地域に居住し、又は居住していた被控訴人又はその被承継人について、受忍限度を超えたものとして違法性を帯びるものと認めるのが相当である。

3 そこで次に、被控訴人又はその被承継人の住居とW値八〇以上の区域の関係を確定しなければならないところ、騒音暴露の程度の実際は、本来ならば、被控訴人らの居住地における侵害期間ないし後記損害賠償請求可能期間である昭和四八年三月三〇日から当審口頭弁論終結の平成三年八月三〇日までを通じての実測値又はコンターによるW値を参考として判断すべきであるが、本訴において明らかであるのは平成元年コンターのW値と被控訴人らの居住地の関係のみであり、前記その余のコンターと被控訴人らの居住地の関係を明らかにする作業はなされていない。そこで、平成元年九月一四日以降については、同日の実測によりその精度が確認された平成元年コンターにより被控訴人らの住居とW値八〇以上の区域の関係を確定することとするが、〈書証番号略〉と控訴人が平成三年七月一七日付準備書面(四)により自陳するところによれば、別紙三附帯控訴人目録記載の各附帯控訴人について、その居住状況と平成元年コンターのW値の関係は別紙九周辺対策実施状況一覧表中当該附帯控訴人の指定区域欄の括弧内記載のとおりであることが認められる。しかし、平成元年九月一三日以前については実測値又はコンターのW値に代えて運輸省告示による区域指定を参考としてW値八〇以上と被控訴人らの居住関係を確定する外はないところ、昭和五七年三月三〇日の時点において、被控訴人らの居住地、居住時期と航空機騒音防止法に基づいて指定された第一種区域(W値七五以上)、第二種区域(W値九〇以上)、みなし第二種区域、第三種区域(W値九五以上)の関係が別紙九周辺対策状況一覧表記載のとおりであることは当事者間に争いがないところである。従って、昭和四八年三月三〇日から平成元年九月一三日までは、前記認定したところに従い、右当事者間に争いがない第三種区域内居住者は昭和四九年八月三一日告示第三五五号のW値九五以上の、第二種区域内居住者は右同告示及び昭和五四年七月一〇日告示第三九〇号告示のW値九〇以上の、みなし第二種区域内居住者はW値九〇以上に準ずるW値の、各騒音に暴露されていたことを一応推認することができる。

ところで、W値八〇以上九〇未満の騒音被害については、単にW値七五以上九〇未満の騒音被害者が一括して第一種区域内居住者であることに争いがないに止まり、第一種区域内居住者中W値八〇以上九〇未満のものをW値七五以上八〇未満のものから識別して特定するための立証がないのであれば、W値八〇以上九〇未満の第一種区域内居住者についてその特定を欠く結果、全体として騒音被害の立証不充分に帰するおそれなしとしない。しかしながら、前示各運輸省告示によれば第一種区域内居住者は自らの居住地がW値八〇以上であるか八〇未満であるかについては告示の都度福岡空港事務所に備え置かれる図面を縦覧することにより、これを承知する機会を与えられていることが明らかであるところ、本件口頭弁論の全趣旨に徴すれば、控訴人が原審昭和五二年一二月一二日付準備書面において自陳しているとおり、第一種区域内居住者のうち、被控訴人番号1-108、1-109、1-110、1-111、1-112、1-113、1-114、1-115、1-116、1-123、1-124、1-125、1-133、1-134、1-135、1-136、1-137、1-138、1-139、1-140、1-141の二二名(外一名の死亡被承継人がある。)の被控訴人らは昭和五二年一一月三〇日現在において昭和四九年八月三一日告示、昭和五二年四月二日告示のW値八五以上の第一種区域内居住者であることが認められるほか、その余の第一種区域内居住者の具体的な住所地の大略は当裁判所に明らかな事実であり、区域指定図である原判決別冊4被告準備書面引用図表第2図福岡空港に係る区域指定参考図により当該住所地について昭和五四年七月一〇日告示の黄色線の範囲内、即ちW値八〇以上の区域内の居住者を概ね特定することができる。そして、右黄色線附近の居住者については、当該黄色線を含む航空機騒音防止法による区域指定が各告示時点における行政区画によって表示されていることに加えて、前記のとおり騒音コンターと異り、道路、河川等の状況を勘案して基本的には直線でなされており、その具体的範囲の確定が然程困難でないところから、右の区域指定参考図を拡大しその黄色線を株式会社ゼンリン発行に係る福岡市東区、博多区及び大野城市のゼンリン住宅地図'91に引きかえたうえ、第一種区域内の被控訴人の住居表示を一つひとつこれに当てはめ、被控訴人の住所が黄色線の内外いずれにあるかを確認する方法によりW値八〇以上九〇未満の第一種区域内居住者を特定することとした(なお、具体的な特定作業において、右黄色線上附近に位置し、その内外の認定が微妙なものについては被控訴人らに有利に黄色線内、すなわちW値八〇以上と認定した。)。しかして、その特定作業の結果、第一種区域内居住者のうちW値八〇以上の地域のものは別紙一一別表第一損害賠償額等一覧表中指定区域欄1に記載のもの(尤も、当該第一種区域内居住者がW値八〇未満の一種区域に居住した事実がある場合は、その期間は同別紙一覧表から除外した。)であり、その余の第一種区域内居住者であるW値八〇未満のものは別紙一五請求棄却の被控訴人ら一覧表記載のとおりであるが、同被控訴人らについては、他に昭和四八年三月三〇日から当審口頭弁論終結の平成三年八月三〇日までの賠償請求可能期間内において受忍限度の基準値であるW値八〇以上の騒音に暴露された地域内に居住した事実は、本件全証拠によるもこれを認めるに足りる証拠がないから、同被控訴人らの本訴各損害賠償請求はこの点において理由がない。」

四原判決理由B125枚目裏一一行目の「前記地域に転入した者」の次に「(W値七五以上八〇未満の区域からW値八〇以上の区域に転入した者及びW値八〇以上の各種区域相互間を転住した者を含む。)」を加える。

五原判決理由B126枚目裏一三行目の「本件口頭弁論」から同末行目の「損害」までを「本件口頭弁論終結の翌日である平成三年八月三一日以降に生ずべき損害」と改める。

第五損害賠償額の算定

一そこで、前記のとおり、W値八〇の受忍限度を超える地域内に居住した事実が認められないとして本訴請求が理由がないとされた別紙一五請求棄却の被控訴人ら一覧表記載の各被控訴人を除くその余の被控訴人(附帯控訴人)らについて損害賠償額を具体的に定めることとする。

先ず、賠償請求可能期間は、前記のとおり、別紙一一別表第一損害賠償額等一覧表1記載の本件第一次訴訟の被控訴人らについては、本訴提起日の三年前の日である昭和四八年三月三〇日から、同別表第一同一覧表2記載の本件第二次訴訟の被控訴人らについては、本訴提起日の三年前の日である昭和五三年一〇月八日から、それぞれ本件口頭弁論終結日である平成三年八月三〇日までの期間(転入、転出又は死亡の場合はそれぞれ居住の期間)である(なお、前示のとおり、被控訴人らのうち、第一種区域と他種区域相互間又は第一種区域相互間を移住したものについて、W値八〇未満の第一種区域に居住した期間は同表から除外した。)。

ところで、被控訴人らは、右過去の損害賠償(慰謝料及び弁護士費用)につき、昭和二六年一月一日以降本件第一、第二次訴訟の各提起日までの期間と、第一次訴訟については訴訟提起後の昭和五一年四月一五日から、第二次訴訟については同訴状送達の日の翌日(昭和五六年一二月一五日)から、それぞれ右口頭弁論終結日までの期間とに分けて請求しているが、その訴旨は、昭和二六年一月一日以降各訴訟提起日までの期間に係る慰謝料及び弁護士費用の計二三〇万円については、控訴人の消滅時効の抗弁が認容される場合を慮って、先ず控訴人の主張によるも消滅時効が完成しない時期以降に発生する慰謝料等を発生順に請求し、これが二三〇万円に達しないときは、その以前の時期の慰謝料等で時効消滅しないものを、発生順に右二三〇万円に達するまで請求する趣旨であると解される(したがって、被控訴人らの本件一部請求の訴訟物が特定を欠くとの控訴人の主張は採用できない。)。

二進んで、被控訴人らの後記、期間における居住地、転入(出生)、転出(死亡)の時期及び被控訴人ら各自の賠償期間(請求可能期間)についてみると、別紙一一別表第一損害賠償額等一覧表1、同2記載のとおりであり、後記期間における居住地、賠償期間、指定区域、平成元年コンターとの関係、危険への接近、防音室数等についてみると、別紙一三期間損害賠償額算定計算式一覧表記載のとおりである。しかして、本件空港周辺地域において、受忍限度を超える地域は、前記のとおりW値八〇以上の地域であるが、平成元年コンターの正確性が確認された平成元年九月一四日以降は同コンターのW値によるものの、それ以前においては、第一次訴訟についての賠償請求可能期間の始期である昭和四八年三月三〇日から平成元年九月一三日までを通じて、航空機騒音防止法の規定に基づく前示各指定区域のW値によること、即ち、昭和四九年八月三一日、同五二年四月二日及び同五四年七月一〇日各告示の第一種区域は八〇以上九〇未満のW値の、昭和四八年一一月二四日告示のみなし第二種区域は九〇以上九五未満のW値に準ずるW値の、昭和四九年八月三一日及び同五四年七月一〇日各告示の第二種区域は九〇以上九五未満のW値の、昭和四九年八月三一日告示の第三種区域は九五以上のW値の、各騒音に暴露されていた地域であると一応認めるのが相当である。

ところで、慰謝料算定の基準額を定めるに当たっては、被害の実態を中心に考えるべきことは当然であるところ、被控訴人らの毎日の騒音被害が過去において深刻なものであったのみならず、今日現在なお直ちに解消されることが期待できない状況にあることに注目すると同時に、一方において、独り航空機騒音のみならず自動車騒音を始めとする種種様様な生活騒音に取り囲まれて生活せざるをえない現代文明社会の宿命が意味するものを考え、かつ、既にみてきたところから自ら窺えるとおり、昭和四八年三月三〇日ころから同五七年三月三〇日ころまでの間においては右各指定区域の各W値はその指定時点において概ね騒音の実際と符号したが、昭和五三、四年をピークとして本件空港周辺における騒音は全体として次第に軽減化する傾向にあり、そのため各指定区域の各W値はいずれも相当程度騒音の実際のW値と一致しなくなってきており、その傾向は防音工事後の屋内騒音について特に顕著であること、右騒音軽減化の傾向が主として控訴人らの騒音対策努力の成果に基づくものであることをそれなりに評価したうえ更に、被控訴人らの被害の内容が身体的被害に至っていない事実と本件空港の公共性等本件に顕れた一切の事情を総合して考慮すれば、本件の航空機騒音被害による一か月当たりの慰謝料算定の基準額は、一定のW値と昭和五四年七月一〇日の運輸省告示以前における各指定区域の関係において、次のとおり定めるのが相当である。

(一)  W値八〇以上九〇未満の地域(昭和四九年八月三一日、同五二年四月二日及び同五四年七月一〇日各告示の第一種区域)  二五〇〇円

(二)  W値九〇以上九五未満の地域に準ずる地域(昭和四八年一一月二四日告示のみなし第二種区域)  五〇〇〇円

(三)  W値九〇以上九五未満の地域(昭和四九年八月三一日及び同五四年七月一〇日各告示の第二種区域)  七〇〇〇円

(四)  W値九五以上の地域(昭和四九年八月三一日告示の第三種区域)  一万円

三慰謝料の減額事由は、危険への接近と住宅防音工事であるが、昭和五二年一月一日以降受忍限度を超える地域内へ転入した者は、前記慰謝料基準額の二割減とし、住宅防音工事の助成を受けた者(別紙一一別表第一損害賠償額等一覧表1、同2のとおり。)については、施工日の翌日以降施工部屋数一室当り前記慰謝料基準額の一割減とする。

四相続については、当審における死亡、承継の内容が前示第一の二説示のとおりであるほか、原判決引用図表別表(一九)死亡原告相続人一覧表の死亡原告欄記載の各原告が、同表死亡年月日欄記載の日にそれぞれ死亡したことは、当事者間に争いがなく、その相続人たる被控訴人(承継人)の氏名、死亡原告との続柄及び相続割合が同一覧表記載のとおりであることは、同表認定書証欄記載の各書証によって、これを認めることができる。

従って、右相続人たる被控訴人(承継人)らは、死亡原告、死亡被控訴人の有する損害賠償請求権を右相続割合に応じて取得したものである。

五弁護士費用については、弁論の全趣旨によれば、被控訴人らとその訴訟代理人らとの間で、本件訴訟追行を委任した時点で、弁護士費用として損害賠償認容額の一五パーセントを支払う旨約されたことが認められるところ、本件事案の内容、審理経過、難易度及び認容額等を考慮すれば、慰謝料認容額の一割相当の金額をもって、控訴人による本件空港の設置・管理の瑕疵と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。

六そこで、前記被控訴人(附帯控訴人)らに対する損害賠償額を算定すると、別紙一一別表第一損害賠償額等一覧表1、同2の損害賠償額欄記載の各金員及び別紙三附帯控訴人目録の期間損害賠償額欄記載の各金員となる。右各金員の算出の諸要素及び計算式は、別紙一二別表第二損害賠償算定計算式一覧表及び別紙一三期間損害賠償額算定計算式一覧表記載のとおりであるが、右計算に当り、便宜上、時効が完成する最後の日の翌日から本訴各提起日までの期間(第一次訴訟については昭和四八年三月三〇日から同五一年三月三〇日まで、第二次訴訟については昭和五三年一〇月八日から同五六年一〇月八日まで)を期間と呼び、第一次訴訟については昭和五一年四月一五日から、第二次訴訟については昭和五六年一二月一五日から、それぞれ原審口頭弁論終結日である昭和六二年一二月七日までの期間を期間と呼び、原審口頭弁論終結の翌日である昭和六二年一二月八日から本件口頭弁論終結日である平成三年八月三〇日までの期間を期間と呼ぶこととした。

そして、右損害賠償認容額に対する遅延損害金としては、別紙一二の別表第二の期間の慰謝料合計額に対する、本件訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかである、別紙一一別表第一1記載の被控訴人らについては昭和五一年六月二二日、同2記載の被控訴人らについては同五六年一二月一五日から、それぞれ支払済みまで民法所定の年五分の割合による金員を、別紙四附帯控訴人目録記載の各附帯控訴人のうち、同目録附帯控訴人番号69、124ないし128、130ないし138、224ないし230、232ないし236の各附帯控訴人はいずれも期間における慰謝料請求権を有しないこと前示のとおりであり、従ってその遅延損害金の請求も当然に理由がないものであるから、その余の各附帯控訴人の関係において、別紙一二の別表第二の期間の慰謝料合計額に対する原審口頭弁論終結の日の翌日である昭和六二年一二月八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による金員を認容すべきである。

第六結論

一以上の次第にて、被控訴人(附帯控訴人)らの本件福岡空港夜間飛行禁止等を求める各請求のうち、

1、被控訴人らの昭和六二年一二月七日までに生じたとする、各期間の損害賠償請求は、別紙一五請求棄却の被控訴人ら一覧表記載の各被控訴人の請求は全て失当として棄却すべきであり、その余の被控訴人らの関係で、別紙一一別表第一損害賠償額等一覧表の損害賠償額欄記載の各損害金及び内金である別紙一二の別表第二の、各期間別慰謝料合計欄記載の各金額に対する訴状送達の翌日であることが記録上明らかな第一次訴訟の各被控訴人については昭和五一年六月二二日から、第二次訴訟の各被控訴人については昭和五六年一二月一五日から、各支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度において正当としてこれを認容し、その余は失当としてこれを棄却すべきであり、

2、別紙二附帯控訴人目録記載の各附帯控訴人の福岡空港供用差止請求に係る訴えは不適法としていずれもこれを却下すべきであり、

3、別紙三附帯控訴人目録記載の各附帯控訴人の昭和六二年一二月八日以降における損害賠償請求は、当審口頭弁論終結の日である平成三年八月三〇日までに生じたとする期間の損害について、別紙一六請求棄却の附帯控訴人ら一覧表記載の各附帯控訴人の請求は全て失当として棄却すべきであり、その余の附帯控訴人らの関係で、別紙三附帯控訴人目録中当該附帯控訴人の期間損害賠償合計額欄記載の各金額による損害金の支払いを求める限度において正当としてこれを認容し、その余は失当としてこれを棄却すべきであり、平成三年八月三一日以降に生ずるとする将来の損害賠償請求に係る訴えは不適法としてこれを却下すべきである。

二よって、

1、控訴に基づき、前項1と結論を同じくする別紙一四控訴棄却の被控訴人ら一覧表記載の被控訴人らの関係において原判決は相当であり本件控訴は理由がないからいずれもこれを棄却し(但し、同別紙備考欄に訴訟承継の記載がある被控訴人については、訴訟承継に伴う損害賠償額は別紙一一別表第一損害賠償額等一覧表の損害賠償額欄及び内金欄記載のとおり変更された。)、一部結論を異にする別紙一五請求棄却の被控訴人ら一覧表記載の被控訴人らの関係で、原判決主文第二項の控訴人敗訴部分を取り消したうえ、同被控訴人らの請求を棄却し、その余の被控訴人(但し、別紙一四控訴棄却の被控訴人ら一覧表記載の各被控訴人を除く。)らの関係で原判決主文第二項、第三項を前項1のとおり(但し、終期の記載がある遅延損害金については原判決記載の限度において)変更し、

2、附帯控訴に基づき、(一)別紙二附帯控訴人目録記載の各附帯控訴人の福岡空港供用差止請求に係る訴えについて前項2と同旨の原判決主文第一項中同附帯控訴人ら関係部分は相当であり同附帯控訴人らの附帯控訴は理由がないからいずれもこれを棄却し、(二)別紙三附帯控訴人目録記載の各附帯控訴人(但し、別紙一六請求棄却の附帯控訴人ら一覧表記載の各附帯控訴人を除く。)につき、前項3と一部結論を異にする原判決主文第四項中同附帯控訴人ら関係部分を前項3のとおり変更し、(三)別紙四及び同五の各附帯控訴人目録記載の各附帯控訴人らが当審において遅延損害金の請求を拡張したところに従い、前者について、別紙四附帯控訴人目録の附帯控訴人のうち番号69、124ないし128、130ないし138、224ないし230、232ないし236の各附帯控訴人を除くその余の附帯控訴人が同別紙目録賠償慰謝料合計額欄記載の各金額に対する昭和六二年一二月八日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度において、正当としてこれを認容し、その余の請求及び右除外された附帯控訴人らの請求を失当としてこれを棄却し、後者について、別紙五附帯控訴人目録の当該附帯控訴人の相続分慰謝料額欄記載の各金額に対する同目録遅延損害金の終期欄記載の日の翌日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める請求を正当としてこれを認容し、同別紙目録附帯控訴人番号99、100、102、103、109ないし112、166ないし169、242ないし245の各附帯控訴人を除くその余の各附帯控訴人のその余の請求は失当としていずれもこれを棄却することとし、訴訟費用及び附帯控訴費用の負担につき民訴法九五条、九六条、八九条、九一条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官鍋山健 裁判官松島茂敏 裁判官中山弘幸)

別紙〈省略〉

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